医療的ケア児とインクルーシブ教育
プロジェクトの概要と背景
インクルーシブ教育を問い直す
インクルーシブ教育は、すべての子どもが共に学ぶ機会を持つべきであるという基本原則として広く認識されています。この原則は、「子どもの最善の利益」に基づくものです。しかし実際には、次のような問いが残されています。
インクルーシブ教育は、日々の学校生活の中でどのように実現されているのでしょうか。
単に子どもが特別支援学校ではなく通常の学校に在籍しているだけでは、インクルーシブ教育が実現されているとは言えません。真のインクルージョンとは、物理的な「場」の共有にとどまらず、意味のある参加や適切な支援、そして一人ひとりの子どもが学び、成長できる環境が整っていることを意味します。では、私たちはどのようにして「インクルーシブ教育が実現されている」と判断できるのでしょうか。それを支えているのは誰なのでしょうか。その恩恵は誰に、どのようにもたらされているのでしょうか。そして、その過程でどのような課題や葛藤が生じているのでしょうか。
なぜ今、この問いが重要なのか
人工呼吸器管理や経管栄養など、日常的に高度な医療的ケアを必要とする子どもたちは、世界的に増加しています。日本においても約2万人の医療的ケア児が生活しており、そのうち約1.1万人が小・中・高校などの学校に在籍しています。こうした子どもたちにとって、教育へのアクセスをいかに保障するかは、インクルーシブ教育を推進する上で極めて重要な課題となっています。
インクルージョンを実現するのは誰か
インクルーシブ教育は政策目標として語られることが多い一方で、それが現場でどのように実現されているのかについては、十分に検討されてきたとは言えません。実際の学校現場では、医療と教育、制度と日常生活のあいだをつなぐ存在が重要な役割を担っています。その中で、近年注目されているのが「学校看護師」です。
本研究の焦点:学校看護師という新たな役割
日本では近年、医療的ケア児を支えるために学校に配置される新たなタイプの看護職が制度化されました。これらの看護職は、主に病院や臨床現場での経験を背景に持ちながら、学校という教育の場で活動しています。
しかし、学校という環境では、医療的な専門性に加えて、教育的配慮や子どもの発達、対人関係への理解が求められます。このことは、学校看護師の役割がどのように理解され、実践されているのかという新たな問いを生み出しています。
インクルーシブ教育を問い直す
本プロジェクトでは、学校看護師がインクルーシブ教育の実現において果たしうる役割に着目し、以下の問いに取り組みます。
- 臨床での専門性を持つ学校看護師は、学校という教育現場でどのように活動しているのか
- 保護者、教職員、行政、そして子どもたちは、学校看護師にどのような役割を期待しているのか
- 実際の現場で、学校看護師はどのような役割を担っているのか
- 学校看護師はインクルーシブ教育をどのように支えうるのか
- その役割にはどのようなやりがいや課題があるのか
- 学校看護師の存在は、子どもや家族にどのような影響をもたらすのか
本プロジェクトの目指すもの
本プロジェクトでは、インクルーシブ教育を理念として捉えるだけでなく、それが実際にどのように実現されるのかを明らかにすることを目指します。具体的には、以下を通じて、日本および国際社会における政策や人材育成に資する知見を提示します。
- 学校看護師の教育的役割の概念整理と体系化
- 医療的ケア児本人の視点から見た教育と支援のあり方の探求
- 国際比較研究を通じた実践的枠組みの構築
最終的には、「インクルーシブ教育を実現するとはどういうことか」を、より具体的かつ実践的に示すことを目指しています。
私たちの取り組み
本プロジェクトでは、研究・実践・政策を横断しながら、医療的ケアを必要とする子どもたちにとって、インクルーシブ教育がどのように実現されうるのかを明らかにすることを目指しています。多様な関係者との連携を重視しつつ、とりわけ子どもたちを支え、代弁する立場にある学校看護師の経験や志向、そして直面する課題に焦点を当てています。
※本プロジェクトでは、国内の法令用語である「医療的ケア看護職員」ではなく、国際的に共通性の高い「学校看護師(School
Nurse)」という呼称を使用しています。
経 緯
2022年2月
学校現場における看護師の業務調査、インタビュー調査開始
2022年6月
日本保健医療社会学会ラウンドテーブルセッション「新たな職能としての‘学校看護師’の現在及び今後の展開
ー医療的ケア児も地域の公立校に通い・学び・成長するために―」
2022年7月
医療的ケア児の教育を支える学校看護に関するWeb調査(国際比較研究)開始
現在の取り組み
現在、学校看護師の教育的役割をより深く理解するための概念的・実践的枠組みの構築を進めるとともに、国際比較研究のさらなる展開に取り組んでいます。



